オジサンのつぶやき
   【置引きと遺失届け】

とある土曜日の朝7時過ぎ。
場所は郊外を走る私鉄電車内。
深い眠りからふと我に返ったオジサンは、網棚のカバンがなくなっていることに気がついた。
「?!?!」
急いで辺りを見渡すとその車両には誰も乗客がいない。
着いた駅名を見ると、いつもの下車駅よりズット先の駅であった。
瞬時に「盗まれた!」と思ったが後の祭り。
犯人らしき者はもちろん、目撃者らしき人影もいない。
昨夜の深夜作業(?)で朝帰りとなり、帰途の電車内で熟睡してしまったのだ。
おそらく座席にすわれない状態でカバンを網棚にあげ、目の前の乗客が降りた時
そのまま座って眠り込んだと思われた。(実は明確には覚えてはいないが)
急いで今朝の足取りを順に辿って行く。
2つの営団線とJRの乗り換えた駅の事務所を尋ねる。
K駅の乗客係りは親切にも忘れ物が集まる全駅に電話で問合せをしてくれた。
結果は「残念ながらそのような届け物はありません」。
JRの乗り換えた駅ではパソコン好きの若い駅員が、カバンの特徴から、全駅からの
拾得物一覧をパソコンの画面から検索してくれた。
一々各駅に電話する必要も無く便利なことである。
しかし、誰かが拾得してくれない限りは、そのパソコンの画面には現れない。
カバンには1週間前に作成した「遠近両用レンズ」入りの眼鏡とネクタイ、
中身のない弁当箱、『重要書類』に実印と認印。
オジサンの家族の個人情報満載の黒皮風の手帳。
おまけにその手帳には「隠し現金」が入っていた。
憔悴しきった顔で帰宅したオジサン。
勿論、待ち構えていたのは一切の弁解の余地を与えないオバサンの波状口撃。
その日はそのまま夜まで寝入ってしまった。
翌日、早速最寄の駅前の交番に行く。
当然「被害にあったのだから」と「盗難届け一覧」を作成して持参。
無人と思った交番の奥から小太りの若い警官がのっそり出てきた。
さっそく「盗難届け一覧」を見せながら状況を説明する。
直ちに受領し手続をとるかと思いきや、突然、こう言ってきた。
「カバンは抱えていたのですか?」
「だから言ったでしょう、網棚に乗せていたと!」とオジサン。
「網棚は座席と異なり専有空間ではないのですよ」と若い警官。
「だから何なのさ!」と心の中で叫ぶオジサン。
「したがって網棚に乗せたものには明確な所有権がありません」
「『盗難届け』として受理すると、善意で拾って届けた人が迷惑するのです」
「ですから『遺失物届け』として処理します」
「見つかれば連絡が来るのであれば、どちらでもいいですよ」とオジサン。
それまで完璧に「被害者」意識一杯であったオジサンは少々拍子抜けしてしまった。
交番を出る時に、「酔っ払って寝込んで忘れたあんたが悪い」という声が後ろから
聞こえてくるような錯覚に陥ってしまった。

<2003.9.28>



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