著作物の再版制撤廃阻止に向け

7・11 市民のつどい





蒸し暑い曇天の7月11日夕、「新聞・出版・音楽が危ない!言論・文化・芸術と再販制度を考える市民のつどい」が東京・千代田区の九段会館で開かれ、約1300人の参加者は、著作物再販制度維持の大切さを訴える発言者に耳を傾け、コーラスやピアノ・ハーモニカのデュオに魅入った。

石井勝彦(新聞労連)


集会前にパレード

 集会に先立ち、毎日新聞社前から九段会館までのコースを新聞・出版・音楽の労働組合の仲間150人がパレード。デキシーランド・ジャズの演奏を先頭に宣伝カー、横断幕、プラカードで勤め帰りの市民に「著作物の再販制度撤廃反対」をアピールした。

 集会は、男女7人のコーラスグループ「ボイス・フィールド」による「蘇州夜曲」で幕を開けた。コーラスによる透き通った音色の歌声に、ステージ右肩には花や草原、せせらぎといったイメージ画像が彩りを添えた。

 最初の発言者はフリージャーナリストの増田れい子さん。「新聞は1日約5000万部、出版物は年に5万点ぐらい発行されている。多すぎると思われるかもしれないが、たくさんあった方が生活、文化を豊かにする。再販制度撤廃でそういうものは守れないのに、どうして歯車を逆回しさせるようなことをするのか」と疑問を投げかけた。

 増田さんの紹介でシャンソン歌手の石井好子さんが登場。「音楽の好みは、シャンソンが好きな人もいれば演歌が好きな人もいる。いろんなジャンルの音楽を守るためにも再販制度をなくさないでほしい」と語った。





宅配制度は守りぬく

新聞からの発言

 新聞からの発言は3人。

 新聞販売協会の山畑儀雄さんは「毎朝、新聞によっていろんな記事に出会う。この当たり前のようなことが民主主義の発展に寄与してきたと思う。大勢の先輩たちが築いた宅配制度は守り抜きたい」と決意を述べた。

 毎日新聞社販売局の岩木譲二さんは「販売店主たちは公共性を礎にどんなに遠くても届けたいという心を持っている。景品による過当競争など私たちにも反省する点はあるが、将来を見つめて読者の利益を追求したい」。

 朝日新聞社経済部の駒野剛さんは「安くするためにどうしていくかという趨勢の中で、再販制度だけに固執せず読者サービスを忘れないで紙面を充実させていくことが大事だと組合から提言していくべきだ」と主張した。



本は消耗品とちがう

出版からの発言


  「星に願いを」のコーラスで心を解きほぐした後は出版の部。

 4人がステージに立った。神奈川で小さな書店を経営する万納昭一郎さんは「本の配達などきめ細かなサービスでこれからも街づくりに貢献していきたい」と再販制の下で地道な仕事を続けることを強調した。

 児童図書出版の小峰紀雄さんは「10年、20年後に禍根を残すようなことはしたくない。子供たちが自分の言葉で自分のことを考えるのは民主主義の基本だ」と児童書の必要性を強調し、親子図書の広瀬恒子さんは「地方は公共図書館を持つ自治体は30%しかない。売りやすい本という観点で出版すると児童書は選択範囲を狭める」と子供をとりまく本の環境はいまでも悪いことを訴えた。

 「りんご追分」のコーラスを挟み、児童文学者の木暮正夫さんは「本は消耗品と違って、子供たちの心に残す高い文化性を担っている」と一般商品との違いを説明した。



再版制撤廃は規制強化

清水英夫さん

 さらに専門家として公正取引委員会の規制研究会委員、青山学院大名誉教授で憲法学者の清水英夫さんは「独禁法の例外を認める再販制度はもともと規制の緩和。同制度撤廃はむしろ規制強化である」と時代の趨勢にも合わないことを明らかにした。


1721人のアピール

メッセージ紹介


 コーラス「月光値千金」でアップテンポに盛り上げ、ビジュアル・インタビューで永六輔さんが登場。「著作権を持たない作家たちにも視野を広げて再販制度維持の運動をしよう」との声のメッセージが寄せられた。

 「著作物の再販制度撤廃に反対するアピール」運動は昨年から今年にかけ、呼びかけ人は8人から18人、賛同者は1000人から1721人(7月7日現在)に広がった。賛同者の440通のメッセージの中から、秋山ちえ子さん、寿岳章子さん、三浦綾子さん、佐野洋さんら6人のコメントが紹介された。




貴重な文化遺産を失う

音楽からの発言


  発言は音楽の部に移った。

 レコード店・東京堂の大谷芳弘さんは「二者択一で育ってきた人たちも、一つの歌から受ける感動は一つではない。売れ行きによって大きく値が変わる商品と同じではいけない」と音楽の特性を訴え、東芝EMIプロデューサーの白石まどかさんは「再販制が撤廃されると音楽文化の彩りを失い、日本の貴重な文化遺産を失ってしまう」と伝統音楽の分野に特に影響が大きいことを強調した。

 ハーモニカ奏者の崎元譲さんは「安くなるのならいいと思っていたが、種類がなくなり失業者も増えるとすれば深刻」と音楽家の実情を言い、ピアノとのデュオでハーモニカの演奏。「現ナマに手を出すな」「真夜中のカウボーイ」のテーマ曲。映画のシーンを思い浮かべた人も多かったのではないだろうか。



再販制度維持のため市民の理解を広げよう!


 一般市民からの発言コーナーも設けられた。

 高校生の加賀匡さんが予定されていたが、急病のため代理発言。「新聞がきちんと主張するために再販制は必要と言うが、どの新聞がそうなのか分からない。でも再販制を必要とする人たちのことも考えなければいけないということを、子供たちにももっと伝えてほしい」要望した。

 続いて、京都子ども劇場の恵島千恵子さんは「化粧品と同じだと思っていたが、芸術や文化に市場原理を持ち込む危うさを考えたい」と自己反省を交えて発言し、永く市民運動にかかわる俳優の江見俊太郎さんは「市民の理解を得るために全国でどんどん集会を仕掛けよう。地方自治体での「意見書」採択も有効と問題を提起した。



にぎやかにフィナーレ


 コーラス「デイ・バイ・デイ」に続き、最後の発言者は作曲家の服部克久さん。

 「音楽は隅に押しやられるジャンルでも、それに感動する人のためにある。規制にもいいものと悪いものがある。いのちと健を守規制は外してはならない」と締めくくった。

 この集会は、労働組合色を薄め、音と映像を織り混ぜたしゃれた内容だった。発言の合間に7度もコーラスを入れ、参加者を退屈させない工夫が施され、あたかもコンサートを鑑賞したような雰囲気の中、「オーバー。ザ・レインボー」と「上を向いて歩こう」。会場では手拍子や口ずさむ姿が多く見られた。そして最後は、集会として服部さんの指揮によるシュプレヒコールで幕を閉じた。



アピール賛同者名簿完成


  「著作物の再販制撤廃に反対するアピールをひろげる会」に寄せられた賛同者は、各界から1754人に達した(7月24日現在)。
  7月11日に発表した名簿がMIC各単産に送られています。希望の方(組合)は単産本部に申し込むか、直接MIC宛ご連絡ください。