公正取引委員会は去る3月23日、懸案となっていた著作物の再販制度の存廃問題に以下のような結論を出した。
 「著作物の再販制度の取り扱いについて」と題する文書のなかで、公取委としては「規制改革を推進し、公正かつ自由な競争を促進することが求められている今日、競争政策の観点からは廃止すべきと考え」ながらも、「廃止されると、書籍・雑誌、及び音楽用CD等の発行企画の多様性が失われ、また、新聞の個別配達制度が衰退し、国民の知る権利を阻害する可能性があるなど、文化・公共面での影響が生じるおそれがある」との反対意見も多く、「国民的合意が形成されるに至っていない状況にある」ため、「当面同制度を存置することが相当であると考える」というものであった。

 こうした結論を出さざる得ない背景として、公取委は「著作物再販制度の見直しに関する意見照会・意見聴取等の状況について」(3月14日)を発表したが、昨年12月上旬から今年の1月25日までに寄せられた個人及び団体の意見は、総数2万400件余りのうち、再販維持が98.8%、反対が1・2%と、圧倒的に再販制度撤廃の反対意見が多かったこと。更に、2月のMICの再販制集会に業界団体が一堂に会したように、新聞、雑誌・書籍、音楽業界とそれぞれの販売業界がこぞって反対しており、現在の政治状況の中でも自民党から共産党までが一致して再販制度を維持する立場を明確にしていることがあげられる。
 しかし、公取委は「今後とも同制度の廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾注する」として、意見交換をする場としての「公正取引委員会、関係事業者、消費者、学識経験者」で構成する「協議会」を設置。「関係業界に対し、非再販商品の発行・流通の拡大、各種割引き制度の導入等による」方策の一層の推進をはかり、「著作物の取引実態の調査・検証に努める」との決意を表明、今後とも弾力運用などの行政指導を強めていく姿勢を明確にしている。

 公正取引委員会は3月23日に、「当面同制度(再販制度)を存置することが相当」との結論を発表し、10年越しの再販制度見直し論議にけじめをつけた。結果的に私たちの存続の要求が満たされはしたものの、その理由については納得しがたいものがある。
 
 以下、見解を述べる。
1.私たちは、本や新聞の読者、CDのリスナーを「消費者」と呼ばない。私たちは一般の消費財を生産しているわけではないからである。私たちは再販制対象の6品目を、文化的所産として一般の消費財と区別すべきであるし、これらは競争政策に馴染まないと主張してきた。しかし、公取委の発表を見る限りそれが理解されたとは考えられない。
2.この結論が公取委の判断でないことは、「国民各層から寄せられた意見をみると」、同制度が廃止されると「文化・公共面での影響が生じるおそれがある」とする意見も多く、「同制度の廃止について国民的合意が形成されるに至っていない状況にある」から、「当面同制度を存置することが相当であると考える」という理由を見れば明らかである。
3.さらにこうした結論を出しながらも、「競争政策の観点からは同制度を廃止」すべきだし、「今後とも著作物再販制度の廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾注する」と決意を表明してさえいる。おまけに「協議会」なるものを設けて動向を監視するとなれば、逆に公取委の決意表明を押しつけられる危険性を恐れる。
4.一方3月14日に発表された、「(同制度の)見直しに関する意見照会・意見聴取等の状況について」によれば、1〜2月にかけて行った消費者団体(計64団体)からの意見聴取に関しては、「全体的にみて、著作物再販制度の廃止を求める意見が多数であった」とのことである。しかし1月25日を期限とした「国民各層からの幅広い意見」の集約では、98.8%が「再販制度維持の意見」であった。いずれにしろ再販制度の廃止を求める消費者団体に、再販制の意義を理解してもらうことは、今後の私たちの課題として残る。
 
 ともあれ、多くの国民が再販制の存続を望んだことは明確である。この世論に、一人公取委が逆らうことのないよう要請したい。また聖域なき「規制緩和」など「国民各層」の誰もが支持しているわけではないことを、公取委は銘記すべきであると考える。

以上

 

 
 
 

鋤柄 誠(MIC事務局長)
 働くもののいのちと健康を守る全国センターは結成3年目を迎えた。この2年間の活動は、過労死・じん肺のたたかいを中心に、労災・職業病の認定・補償で貴重な勝利をかちとり、7つの地方センターが結成されるなど、全国的な運動を展開するネットワークの確立もすすみ、貴重な成果をあげている。
 今年度の重点課題としては、@リストラ・人減らし「合理化」・人減らしに反対し、雇用を守るAただ働き・サービス残業をなくす。年休・休暇の確保など長時間労働改善B規制撤廃後の女性の労働と健康チェック、女子保護対策の強化Cパート・派遣など不安定雇用労働者の労働条件改善、権利拡大――があがっている。このほかにも働くもののいのちと健康を守り、職場環境を改善する取り組みの強化、労災・職業病の認定基準の改善と認定闘争支援、すべての県でのセンター的組織の結成と各団体・研究者との共同、全国センターの機能・活動強化と新事務所の開設も重点課題として掲げられている。
 これらの重点課題をみてわかることは、ここ数年働くもののいのちと健康が大きく損なわれていることと、それに対する労働者側の取り組みが弱いことである。成果給、裁量労働、年俸制などの導入がMIC各単産でも進んでいる。この結果は賃金抑制、差別拡大だけでなく、長時間労働や過労死の温床になることも忘れてはならない。
 私はMICから副理事長として全国センターに参加しているが、2ヶ月に一回行われる常任理事会では、研究会報告、事例検討会報告をはじめ、東日本・西日本セミナー、全国交流集会など課題は山積、5時間に及ぶ会議のときもある。
 

 

 


 発生以来、20年に及んだ偕成社関連企業臨時労働者組合の争議は、去る2月2日、偕成社、出版労連、支援連絡会議、偕成社臨労、が合意書に調印し解決しました。
 この争議は、1981年4月、「タオル一本の現物支給」などを要求して結成されたアルバイト・パート・嘱託者の組合に対する解雇攻撃に始まり、その後の流通・倉庫部門の戸田移転に伴う配転・契約打ち切りをめぐって闘われました。
 法廷闘争の面では、業界の趨勢を口実に戸田移転の「合理性」を主張し、不当労働行為意思を巧みに包み隠した会社側の主張を認めた不当判決が最高裁で確定するという、極めて厳しい状況下での闘いでした。
 組合員は、この重いハンディを背負いながらも、蹂躪された権利の回復を求め、出版業界内外の多くの人々の支援と励ましを受けつつ、偕成社経営の社会的・道義的責任を追及して、今日まで粘り強く闘い続け、ついに争議の和解・終結を勝ち取ることが出来ました。
 雇用確保が実現できなかったとはいえ、偕成社が最高裁判決ですべて終わったとして話し合いさえも拒否し続けた困難な条件下で、交渉をきりひらき、争議解決を決断させ争議終結を勝ち得たことは、大きな成果だと考えます。
 偕成社臨労の仲間は、この解決に確信を持ち、新たな門出に立ちます。不安定雇用労働者がますます増大しつつある今日、臨時労働者の組合が20年に及ぶ争議を闘い抜いた事実は、様々な教訓と共に私たちの運動に引き継がれていくことと思います。
 長年にわたるご支援本当にありがとうございました。 2001年2月5日 偕成社臨労争議支援連絡会議
 

 

 


 

 「権力によるメディア規制を許すな!」をスローガンにしたMIC春闘総決起集会が3月12日夜、市ヶ谷・エデュカス東京で開かれ、各単産の組合員ら約150人が参加した。冒頭、「メディアの危機は市民社会の危機であることを共有したい。先日、日活映画の『日本の黒い夏』を観た。松本サリン事件で冤罪報道がされてから6年、このシンポでメディアの人権感覚がどのように変ったかのが明らかにされることを期待する」と今井議長があいさつ。その後テレビ朝日「スーパーモーニング」キャスターの蟹瀬誠一さんが連帯のあいさつ。
 蟹瀬さんは、「メディア規制法が厄介なのは、一般の人に耳障りのいい形で出てきているからだ。いい環境をつくるとの主張が共感を呼んでいる。メディアの規制が必要だとの風潮を作ったのはある意味で我々ではないのか」「弱者いじめを続けている現状では、市民の共感を到底得られない。メディアが規制されると、あなたがたの自由もなくなるということを知ってもらうしかない」と結んだ。ついで原寿雄・元共同通信編集主幹と北村肇・サンデー毎日編集長との対論が行われた。
 原さんはまず、放送と青少年に関する委員会の委員長を務めている立場から、テレビ番組への苦情が毎月二、三百件に達している実態を紹介。青少年社会環境対策基本法(案)がそうしたニーズに応える形で出てきたと指摘したうえで、有害報道かどうかの判断を役人が勝手に決めたり、権力側が官民挙げた撲滅キャンペーンを起こそうとしている動きについて「戦前の内務省の報道取り締まりや愛国婦人会の思想善導運動を想起させる」と語った。
 個人情報保護法に関しては、「欧米はメディアを対象から除外している。法案では『適正・適法な情報入手』とあり、守秘義務を盾に政治家のスキャンダルを知っている役人もしゃべらなくなる。取材される側もする側も萎縮していく」と述べた。
 原さんはまた、人権機関設置の動きについて「国連規約人権委員会が九八年に日本政府に勧告したことがそもそもの発端」と解説。「本来は刑務所内での虐待など公権力の人権侵害を救済すべきはずのものが、民間の人権侵害と同列視したうえ、メディアに対して文書提出、立ち入り調査といった強制力を伴うなどの危険性がある」と批判した。
 北村さんは、法案の特徴点として「いずれも耳障りのいい建前が作られ、悪いことはすべてメディアの責任にすり替えられている」と指摘。「われわれの側に危機感が薄い」とも語り、メディアの孤立状態を指摘した。言論・表現の自由に関して原さんは、「憲法二一条の規定は、生存権などその他の自由権の基盤となる権利である」と定義したうえで、憲法が保障する自由はメディア企業の自由ではなく、市民社会のジャーナリズムの自由であることを強調した。メディア環境が大きく変化していることにも触れ、「言論の危機は市民の危機と説得しても理解してもらえない」と語り、メディア側が市民に理解してもらう努力をしてこなかったことに原因があると指摘した。北村さんは新聞社の現状について、「記者同士のつながりや人権が守られる環境を作らないと記者一人ひとりがんばれない」と、現状改革の重要性を強調した。
 原さんは、メディアがこれまでに果たしてきた積極的な役割に触れ、「権力犯罪の追及、冤罪の告発など人権を守るために果たしてきた役割にもっと自信を持ってPRするなど、攻めのジャーナリズムに転じる必要がある」と激励、対談を締めくくった。