表現の自由を規制する個人情報保護法案に反対する共同アピール
 

 今国会に提出された「個人情報の保護に関する法律案」は、このままでは「個人情報の保護」という本来の目的に反し、むしろ政治家や官僚などがジャーナリズムや表現活動に新たな制約を加えるための法的武器を与えることにもなりかねない。
 もともとこの法案は、国や公共団体が保有する個人情報を国民が自己管理することを促し、民間事業者が保有する個人情報の商業目的による不正流出などを規制するために立法化が始められたものである。それが実際に上程された法案は、ジャーナリズムを含む民間全体を取り締まる法に性格を変え、言論・報道機関を信用情報業者や名簿業者と同列に置いて主務大臣がこれを統轄するなど、表現の自由への公権力の介入に道を開き、取材・報道・表現活動を様々な形で制約する危険性を持つ内容となっている。
 法案は「基本原則」をすべての個人情報取扱事業者に適用するとしており、もしこれが取材・報道・表現活動並びに学術研究活動に適用されれば、「適正な取得」「透明性の確保」などの5原則にもとづいて、取材過程の開示や記事・研究論文の削除が求められることにもなりかねないし、原則違反を理由に裁判に訴えられる怖れさえある。そうなれば取材源との信頼関係は根底から揺らぐことになり、取材・報道・表現活動が大きな制約を受けるのは火を見るより明らかである。
 確かに、第55条(適用除外)で、「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関」が「報道の用に供する目的」で取り扱う個人情報については「義務規定」を適用しないとしている。しかし、この適用除外には出版社やフリーランスの作家・ジャーナリスト等は明記されておらず、しかも「報道の用に供する目的」と言論表現活動の中の極めて狭い範囲に限定されているため、それ以外の領域が主務大臣の改善・中止命令や刑罰など政府の直接的な統制のもとに置かれることになる。学術研究機関についても全く同様の問題を指摘することができる。表現の自由等への配慮を求める規定もあるが、乱用の防止やチェックを具体的に担保する仕組が設けられていないため、実効的な歯止めは期待できない。
 以上のような理由から、私たちは、政府が提出した「個人情報の保護に関する法律案」に断固反対するとともに、メディアを始め表現の自由に関わる分野については、この法律の対象外とすることを強く要求する。

2001年4月11日

 
共同アピール事務局

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