教育・教科書攻撃を打破するための特別決議

 日本の植民地支配や侵略戦争の事実、加害責任・戦争犯罪を教科書に記述することを「自虐史観」「反日史観」などと誹謗・攻撃する歴史改ざんの運動が表面化してすでに四年余が経過した。この運動はますます激しくなり、一定の広がりをつくっている。歴史改ざん勢力の中心組織である「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)は、2000年度用中学校社会科の歴史的分野と公民的分野の教科書を本年4月、文部省に検定申請した。この教科書は、産経新聞社が発行し扶桑社が販売するが、事実上の発行・販売(採択)活動の主体は「つくる会」である。
 子どもと教科書全国ネット21などが明らかにしたところによれば、「つくる会」の歴史教科書は、侵略戦争と植民地支配を肯定・美化して加害責任を否定し、また公民教科書は憲法を非難し国家に対する忠誠と国防の義務などを説く内容で、いずれも憲法と教育基本法に違反した教科書というべきものである。
 一方、既存七社の歴史教科書の検定申請図書でも、日本の侵略戦争の実態や加害責任に関する記述の大きな後退をはじめ、問題点が多くあることが明らかになっている。このような教科書記述の改悪は、表面上は教科書会社による検定前の「自主規制」という体裁をとっているが、子どもと教科書全国ネット21や出版労連など五団体は、この「自主規制」が政府・文部省による強い政治的圧力によって強制されたことを明らかにしている。
 私たちMICに結集する労働者は、言論・出版に携わる者として、政府が教科書内容に介入し「自主規制」の体裁によって教科書記述を変更させることは絶対に容認できない。
 また私たちは、アジア諸国からの批判や家永教科書訴訟をはじめとする日本国民の運動による歴史教科書の記述改善のための長い努力による成果が、右派の攻撃や政府の政治的介入によって台無しにされることを座視することはできない。「従軍慰安婦」や南京事件は、日本政府も認めた国際的常識である。とりわけ「従軍慰安婦」については、国連人権委員会が採択したクマラスワミ報告が「歴史の事実を学校教育で教える」べきであるとし、日本政府も国連人権委員会に「歴史教科書に慰安婦を記述している」と報告している。こうした点に照らせば、これらの記述を後退させたり、ましてや削除したりする理由は全くない。日本政府は口先では戦争の反省を唱えているが、政府の介入による記述削除という事態は国際公約を公然と無視するものであり、アジア諸国をはじめ国際的な批判を招くことはまちがいない。
 「つくる会」は、来年7月の教科書採択で自らの教科書を多くの学校で使用させるために、地方議会や教育委員会への工作をはじめ、なりふり構わない策動を行っている。これに呼応して自民党を中心とした保守派の地方議員・国会議員、さらに「教科書改善連絡協議会」などの勢力によって教科書内容への攻撃や採択制度の改悪を求める意見書の採択が全国で進められている。
 「つくる会」などの運動とその教科書は、「戦争のできる国」づくりのイデオロギー面を担い、新国家主義による国民意識の統合をねらうものである。このような教科書が学校現場に持ち込まれることを許せば、教育は大きく歪められ、日本はアジアを含む国際社会から孤立することになるだろう。
 このような事態を許さないためにも、MICに結集する私たちマスコミ労働者は「つくる会」などの危険な動向の実態を国民に知らせる責任がある。私たちはこの社会的責務を果たし、教科書攻撃に反撃する活動を強化する決意をここに表明する。
 右、決議する。

2000年9月30日
日本マスコミ文化情報労組会議 第39回定期総会