労災・職業病の根絶と認定を勝ち取るための特別決議

 国際的にも知られている日本の長時間労働は、MICの職場においては、一向に改善の兆候を見せるどころか、この状態を放置したまま、裁量労働制の導入を図ろうとする経営者の強い姿勢が露わになっている。「自律的、創造的な働き方をすることによって、その能力や創造性を遺憾なく発揮する」という名ばかりの「自由」「裁量」を標榜する背景にあるのは、「とにかくテレビ局の人件費は高すぎる。固定費の圧縮は急務だ」という日本テレビ・氏家社長の言に明らかなように、時間外割増賃金の削減しか眼中にない経営者の姿勢である。
 労災認定の基準が変わりつつあり、とりわけ「過労死」「過労自殺」については、精神疾患を広く解釈するなど、基準緩和の方向にあると報道されている。事実、いくつかの事件を労災と認定する決定・判決が注目を集めている。2001年8月仙台労基署は、TV制作で過重労働により自殺した女性(98年1月当時23歳)について、仕事で精神的に追いつめられたことが原因と判断、労災と認定した。確かにこうした事例は出ているが、労働災害を救済・補償しようとする行政・経営者の姿勢が、私たち労働者の利益に傾いているわけではない。社会的に大きな注目を集めた電通・大島さんの過労自殺事件で最高裁は、裁量制や自己責任、両親の保護責任まで主張した会社に対し、使用者責任を厳しく断罪する判決を下した。ところが会社は、判決は「自由闊達に社員が仕事をする社風を逆行させるもので、会社の主張が認められず残念である」との談話を全社員向けに公表した。不見識極まりない発言と言わざるを得ない。しかし、こうした経営者の態度を後押しするのが現在の厚生労働行政の一貫した施策である。
 永井製本・金井さん過労死事件は、東京地裁(99年8月)・高裁(2000年8月)で連続して全面勝利判決が出されたにもかかわらず、中央労基署は最高裁に上告受理申立てをした。既に1年を経過した現在も最高裁の判断は示されていない。また、共同プロセス・酒井さん過労死事件では、2000年10月に予定された労働保険審査会の公開審理で、直前になって申請していた意見陳述人の人数制限をしてきたため、審理期日が延期されたままになっている。フリー映画カメラマン・瀬川さん過労死事件では、今年1月25日、東京地裁が瀬川カメラマンを「労働基準法第九条の『労働者』と認められない」との不当判決を出したため遺族と支援する会は控訴し東京高裁で審理中である。瀬川事件と同じ「労働者性」を争点とする映画美術監督・佐谷さん事件は、労働保険審査会が今年7月、佐谷さんを「労働基準法第九条の『労働者』と認めず」との裁決を出したが、その内容は瀬川事件の東京地裁判決を下敷きにした不当裁決で行政訴訟の準備がすすめられている。
 このような厚生労働省の姿勢の中で、茨城新聞・村上さん過労死事件では、水戸地裁勝利判決後、労基署が不当控訴していたが、東京高裁で行政側に控訴を断念させる全面勝利判決が出され、労災と認定されたことは画期的な出来事であった。この認定の取り組みでは、遺族の粘り強い意志に裏打ちされた運動の成果によって、勝利判決を勝ち得たと言え、今後の労災認定の取り組みにとって大きな教訓となった。また、労災事例ではないが、新聞職場では、ローテーション勤務(変則)があるため、非ローテーション勤務の日勤職場でも年間休日数が少なく、休日増が時短の課題となる中、新潟日報労組は2001年春闘において、日勤職場の年間休日数を2001年4月より従来より10日間増やし年間126日にする成果を勝ち取ったことは注目すべき取り組みであった。
 2000年4月に施行された改定労基法では、裁量労働制の対象を「企画・立案・調査・分析」業務に拡大されたが、それには労使委員会の設置と決議、導入後の労基署への報告、さらには対象となる「労働者本人の同意や導入後の苦情処理、健康・福祉の確保措置」が義務付けられた。既に裁量労働制が導入された職場でもこの制度を大いに活用すべきことは言うまでもない。しかし留意すべきは、「裁量労働制」そのものが、産業革命以来、資本主義下の長時間労働を規制して1日8時間労働を勝ち取った人類の発展の歴史に逆行するものである(過労死弁護団・川人博弁護士談)という点である。その意味で、裁量労働制が導入された大手出版社・光文社で発生した過労死事件は、労基署・保険審査官が労災と認定しなかった決定理由に、「裁量労働制の職場なので、勤務時間を工夫できたはずだ」と挙げていることは、川人弁護士が指摘する「裁量労働制」の本質を顕著に表わしているものとして注目すべきである。
 私たちは、人間らしく生き、働く権利への侵害を断じて許さず、過労死・過労自殺事件根絶、労災保険補償制度の改善、労働行政の改革のために奮闘する。
右、決議する。

2001年9月29日
          日本マスコミ文化情報労組会議 第40回定期総会