有事法制の廃案を目指す決議

 「備えあれば憂いなし」。小泉純一郎首相は有事法制に関する質問を受けると、この言葉を繰り返し、「平時」の準備を強調する。政府・与党は2002年9月11日の米国同時多発テロ、日本領海近くへの不審船浸入などを契機に、武力攻撃事態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案の三法案を国会に提出した。いわゆる有事三法案である。
 これらの法案に対して、国民の反発は強く、全国各地で廃案を目指す反対集会やデモが起きた。特徴的だったのは従来、平和の問題というとイデオロギー問題と同一視されるケースが目立ったが、今回の反対の声はイデオロギーや党派、宗教などを超えて広範囲に及んでいる点である。高い支持率の小泉首相が言葉に飾りをつけても、国民は分かっているのである。この法律の危うさを。
 嫌なのである。アメリカの軍事戦略に組み込まれ、戦争の加害者になることを。
 ブッシュ政権誕生後、アメリカの覇権主義が目立つ。国際法をないがしろにしてまでも米国中心の新たな国際ルールをなし崩し的に既成事実化しようとしている。アメリカの国際戦略の基本は軍事力を背景にした「力」である。同時多発テロ事件では、アメリカが標的になる理由を省みることなく、アフガニスタンに対する報復攻撃に踏み切った。さらにはイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しして武力攻撃の可能性を強めている。しかし、「力」ではテロ根絶には結びつかない。暴力の連鎖を生むだけだ。世界はアメリカの独り善がりの行動に懸念を示し、ようやく米国内でも「イラク攻撃反対」の声が上がっている。
 アメリカ国民は理解し始めたのである。「力」による戦略が世界に平和をもたらさないことを。
 有事三法案は問題が多い。政府が有事と判断すると国民や自治体に戦争協力を保障するもので、その有事の判断もあいまいであること。国内で自衛隊や米軍が共同で軍事行動にあたることを認め、土地や建物などの私有財産を強制的に収用し、軍事行動に必要な物資の確保に協力しないものには罰則も科すとしている。またマスコミ労働者に直接、影響を及ぼす問題としては、有事を理由にして、国民に知せる必要がある情報が政府の管理のもとに制限され、知る権利や表現の自由が侵害される恐れが強い点も重要である。大本営発表の情報が垂れ流され、国の統制に従わなければ戦犯となってしまう悪夢が再び繰り返されようとしている。
 とりわけ問題なのは武力による紛争の解決を認めていない日本国憲法の理念に大きく反していることである。
 現在、日本が他国に侵略される恐れは限りなくゼロに近い。しかし、有事法制が制定されアメリカが自国の国益を守るために軍事行動を起こし、それに日本も加担した場合、日本はテロの標的になる可能性は高くなる。それを政府が有事と判断すれば、戦争に突入するのである。こんなばかげた話はない。いま、世界はさまざまな形で結びついている。日本に限ればアジアを中心に製造業の拠点が増え、日本の製品はあらゆる国・地域で利用されている。観光や交流も盛んだ。一方、国内でも外国人が増えている。東京都新宿区で生活する外国人は200か国を超え、国連加盟国より多いとされる。国際化などの言葉を超え、日本はもはや世界と一心同体となっている。
 有事三法案は国会で継続審議となっている。成立は予断を許さない。
 国民、そしてわれわれマスコミ労働者は今こそ声を上げる。
 日本の国益、世界の願いは平和であることを。
 その実現の第一歩として、われわれは戦争につながる有事三法案の廃案に向け果敢に行動することをここに誓う。

2002年10月5日
日本マスコミ文化情報労組会議
 第41回定期総会