現行地上デジタル放送計画の中止を求める決議

 12月1日午前11時、東京・名古屋・大阪の3地域で地上デジタル放送がいよいよ開始される。
 総務省の描く計画によれば、2006年までに全国各地でデジタル放送を開始し、現在行われているアナログ放送は2011年7月24日に終了することになっている。しかしその日までに1億台のテレビをデジタル対応に変えない限りこの計画は成立しないし、その見込みがない現在、地上放送のデジタル化計画は絵に描いた餅でしかない。
 何よりも重大なことはテレビ受信機の買い替えを強制するという、市民生活にとって重要な計画が、視聴者・市民に知らされないまま強引に進められていることだ。最近行われた調査によれば、アナログ放送の終了時期を知っている人はわずか3%にとどまっている。四十兆円と手前勝手に試算してその経済効果に期待をふくらませる前に、受信機の買い替え費用を負担させられる視聴者に対して、説明責任をきちんと果たすことが国の第一の責務である。

 デジタル放送用の周波数を確保するために、現行のアナログ放送のチャンネルを変更する「アナ・アナ変換」作業も計画どおりには進んでいない。8月に対策が終了したとして旧チャンネルの放送電波を止めた東京・八王子中継局では、未対策の世帯が1100戸以上残っていたことが発覚した。工事を申し込んでいたにもかかわらず、見落とされた世帯もあるという杜撰さだ。電波障害の問題もいよいよ現実のものとなってくる。8月に試験電波が発射された際には、CATVや共同受信設備で障害が確認され、家庭に設置している電波の増幅器(ブースター)の障害も報告されている。また当初アナ・アナ変換の対象地域と想定していなかった東京東部で、対策が必要な世帯があることが判明し、急遽、新聞にチラシを入れるという慌てぶりも見せている。

 一方、地上放送のデジタル化によって、放送局も重い負担を強いられる。1局あたり数10億円とされる設備投資額は、地方民放局の年間売上に匹敵する。「マスメディア集中排除原則」の緩和によって放送局同士の合併や子会社化を容認する口実に、デジタル化による経営悪化が挙げられていることは本末転倒というほかない。県域を単位とするローカル局は地域情報を発信し、地域社会に貢献することによって県民の信頼にこたえてきた。放送局の合併・統合はこうした放送局の機能を破壊し、視聴者の期待・信頼を裏切るものである。キイ局でも番組制作費の削減が続けられており、安易な制作体制がもたらす番組の質、放送ジャーナリズム機能の低下は、視聴者の不利益につながるものである。半世紀をかけて積み重ねられてきた放送文化は、総務省主導で暴走するデジタル化計画によって、大きな危機を迎えている。

 電波は国民共有の財産である。今や国民生活にテレビは欠かすことのできない存在となっている。テレビのデジタル化という大きな問題が国民不在で進められてはならないことはもちろん、それが国民の経済的負担や不利益につながるものであってはならない。私たちは現在のデジタル化計画をいったん中止して、視聴者・市民とともに新たな世紀の放送のあり方、電波利用のグランドデザインを作り上げていくことを強く求めるものである。
 
右、決議する。

2003年9月27日
日本マスコミ文化情報労組会議
第42回定期総会